九州大学 教育改革推進本部

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平成29年度 第5回全学FD「大学生の学習時間はなぜ短いのか」

日 時:2017年12月26日(火)13:30~16:40
場 所:西新プラザ 大会議室
構 成:
<基調講演>
「大学生の学習行動と学習時間」
小方 直幸 東京大学大学院教育学研究科 教授


<報告>
「九大生の学習実態と九大教員の教育観」
中世古 貴彦 九州大学教育改革推進本部 特任助教
「ラーニングアナリティクスから見た九州大学の授業」
木實 新一 九州大学基幹教育院 教授


<パネルディスカッション>
進 行:谷口 説男 九州大学基幹教育院 教授
発表者:菅野 颯人 九州大学理学部物理学科3年
    鉾立 春響 九州大学医学部医学科3年
    佐藤 滉祐 九州大学法務学府実務法学専攻2年
パネリスト:小方 直幸 東京大学大学院教育学研究科 教授
      木實 新一 九州大学基幹教育院 教授
      中世古 貴彦 九州大学教育改革推進本部 特任助教

趣旨

 「九州大学は「アクティブ・ラーナー」(学び続けることを幹に持つ、未知な問題や状況にも果敢に挑戦するスピリットと行動力を備えた人)の育成を掲げている。しかし、学生生活実態調査によると九大生の学習時間はあまり長くないことが明らかになっている。教育内容や学生支援について学生の立場から意見を提案する学生モニター会議(教育担当理事の諮問機関)は、「九大生の学習時間はなぜ短いのか」をテーマに平成29 年6 月から8 月にかけて議論を行った。学生モニター会議の議論の結果は、教育担当理事への報告後、9 月の教育企画委員会を通じて学内に周知された。

本FDは、学生モニター会議が集約した学生の声を全学的に共有し、学生の要望や学習の実態、大学側の取り組み、教授法や教育に対する教員の意識等について様々な角度から意見を交わし、アクティブ・ラーナーを育成するための教育の在り方について議論を深めることを目的として開催された。FDでは、基調講演、報告2件の後、パネルディスカッションが行われ、活発な意見交換が行われた。

基調講演

 小方氏の基調講演では、「大学生の学習行動と学習時間」というテーマの下、日本の大学(学生および教員・授業形態)に関する調査結果等について説明があった。
 日本の学生(1、2年生)はアメリカの学生と比べ、週当たりの授業時間の割合が多く、そのため授業外学習の時間を確保できないという現状がある。日本の学生は、1授業あたり0.5時間の授業学習時間を想定した場合、週当たりの学習時間は1,560時間となるが、これはアメリカの1科目あたり2時間の授業学習時間を想定した場合の週当たりの学習時間とほぼ同程度の時間数となる。
 教員の教育行動へ目を転じると、日米教員の教育時間に充てる総時間は、大きく違いはないように見えるが、1教員あたりの担当科目数が多い日本では、担当科目数が増えるに従い、1科目に充てる授業準備時間は不十分になっていく傾向にある。
 能力獲得の場としては、知識・理解の修得にはある程度大人数授業でも可能と考える教員が多いが、汎用的能力/態度・志向性の修得には、研究室・ゼミ単位が有効であると考えている。日本では、研究能力の修得の場として、卒業研究を非常に重要視しているが、卒業研究の単位数が概して少ない傾向がある。単位数が適当かどうかは、検討すべき事項であろう。
 健全な学習時間の確保には、学生の授業外学習時間数と教員の授業準備時間のバランスを見ながら実施可能かどうかを判断する必要がある。
また、学生の学習時間を確保しようとする際には、学生の履修する科目数を考えると同時に、1授業あたりの時間数や単位数といった基本設計をまず考える必要がある。

中世古氏の報告

 中世古氏からは、平成29年11月~12月に行った「教育・学習実態に関する緊急調査」の結果をもとに「九大生の学習実態と九大教員の教育観」について報告があった。


●学習実態に関する緊急調査(学生調査)
学習時間の少ない要因として、学生モニターの当初の議論では、「アルバイト」「課外活動」を挙げる声が多かったが、今回の調査結果では、それらの各種学習活動への影響は限定的であった。学生モニターのその後の議論などを踏まえると、学びのために時間を使わないという学生が空いた時間でアルバイトや課外活動に打ち込むという構図が見えてきた。
GPA制度が学習の動機付けになっていると回答した学生は、GPAが高い傾向にあり、論文、課題等に対する積極性も高い傾向にある。GPAの低下を恐れる学生は1年生に多いが、そういった学生は、GPAを下げないために難しそうな授業への挑戦を諦める傾向にあった。興味・将来との関連性/学習への姿勢の傾向を基に、学生を4つの分類に分けると、学習の動機付けや対話型授業への要望、カリキュラムの過密さ、教員への要望などに対して異なる回答傾向が見られた。


●教育実態に関する緊急調査(教員調査)

 対話と座学のそれぞれを重視する程度によって、教員の教育観を4つに分類して分析していくと、教育(自分の授業)成果の実感度、教師としての自信度で、概ね、両方重視>対話重視>座学重視>好みなし型という傾向が見られた。同僚の先生方と教育に関して自由に議論する機会の頻度等にも同様の傾向が見られ、教員同士のコミュニケーションがカギとなっている可能性が示唆された。コミュニケーションを妨げている原因としては、管理業務負担の重さが考えられ、管理業務の軽減は、研究だけでなく、教育の充実のためにも重要であると考えられた。

木實氏の報告

木實氏からは、「ラーニングアナリティクスから見た九州大学の授業」というテーマの下、九州大学における学習データ分析や今年度から学部1年生で必修となったサイバーセキュリティ科目での取り組みについて報告があった。
ラーニングアナリティクスセンターでは、データに基づく教育・学習の改善を目的に、M2Bシステム(学習支援のためのe‐ラーニングシステム)を利用したデータ分析を行っている。受講者の教科書閲覧状況を瞬時に集計・可視化する「リアルタイム閲覧ログ分析」、学生の予習・復習の学習パターンの分析、学生日誌から感想の抽出と要約を自動で行うことが可能な「日誌理解支援ツール」など、その機能は様々である。

九州大学は、他大学に先駆けて学習アナリティクスを実践しており、時間軸に沿って様々な可視化・分析が可能となっている。今後も、学習時空間アナリティクスの可能性や多様な学習者の特性を考慮した学習時空間の最適化が望まれる。

パネルディスカッション

学生モニター代表3名が、平成29 年6 月から8 月にかけて議論を行った学生モニター会議の報告を行った後、講演して頂いた先生方と一緒に、学生の主体的な学びと大学教育のあり方について、議論が行われた。

学生モニター代表者(菅野氏、鉾立氏、佐藤氏)の報告

学習時間の短さの原因は、「勉強に対するモチベーションの低さ」であり、これには大学側と学生側の両方に要因があると考えられる。大学側の要因としては、授業の内容や成績評価における問題、学問と社会の繋がりが見えてこないなどの点が挙げられ、学生側の要因としては、学業成績が将来に直結していない、入学がゴールになっている、使える時間を学業に回すモチベーションがない、学問と社会の繋がりがみえにくい、などの要因が挙げられた。

それぞれの要因に対する様々な提案が出され、大学側には授業形態変更の実装と学生との連携強化、学生側には学ぶことに関心を持つこと、目標を設定するなど、学生と教員のお互いが歩み寄り、教育改善に対する意見や提案を共有することで、よりよい教育に繋がると考えている。



【会場の様子】

97名(関係者含む)の参加があった。

【パネルディスカッションの様子】

会場から、講演者・学生モニター代表へ多くの質問がなされ、活発な意見交換が行われた。

パネルディスカッションでの討議内容について

ラーニングアナリティクスはメリットがあると感じているが、実際に授業に導入する際の学生の反応はどうか?
(木實氏)教材の操作ログデータから学生の反応が多少分かるが、それだけでは学生の生の声を把握し切れない。しかしM2Bシステムはログデータ分析ツールとしてだけでなく、教員と学生がコミュニケーションをとりやすいツールとして利用してもらえると考えている。様々なかたちで反応してくれる学生が多くなると、教員のモチベートに繋がると感じている。

学生アンバサダーのような役割をMoodleに実装できないか?
(学生モニター)Moodleが導入されてから、教員からのフィードバックは容易になったが、教員によって差がある。今回提案した学生アンバサダーは奨学金や留学プログラム等に関するものを考えていた。こういった取り組みが学生に伝わっていないことがあるので、授業以外に関することについても、もっと共有できればいいと思う。
シラバスやキャンパスメイトがMoodleと連携し、さらに奨学金等の情報が載っていれば共有度が増すのでは?
(学生モニター)既に学生ポータルシステムなどのメーリングリストでは、膨大な量の情報が溢れており、必要な情報を見つけることが困難な状況にある。

バイトやサークルは直接的な要因ではないという点について、日本の学生はそういう傾向があると思うが、主体的な学びのための効果的な方法はなんだとお考えでしょうか。また、高校時代は大学受験のためにモチベートされていたが、それは主体的な学びと言えるのか?
(学生モニター)目標があるという点から考えると、主体的な学びと言えると思う。
(小方氏)学生に対して、急に主体的な学びを求めるのは無理がある。まずは、学生に1週間に1時間の課題を与え、フィードバックを行う。この段階では、強制的な学びではあるが、ある程度やらされることで気づく学問の面白さを経験させて、学生自身に学ぼうと思わせることが大事。段階を踏んで行う必要がある。
(中世古氏)学生モニター会議の中で、「学びの意義が見出せない」、「学問の面白さを教えてほしい」、「大学が取り入れているシステム・制度の存在を知らなかった」など、大学や教員の取り組みや意図が十分に伝わっていないという意見が多かった。先生方は学問と社会の繋がりを伝えていると思うが、学生がそれに気づいていない。学生に対して、もう一歩踏み込んで、学問の意義・面白さを伝えると、学生に伝わるのではないか。さらに、学生ももっと先生方に自分の意見をぶつけていけばいいと思う。

学生モニターからの報告は、大学教育の本質をよくついていると感じたが、学習時間が伸びるための提案として、それぞれの要因においてどれか一つ選ぶとしたら、どれか?
(学生モニター)大学側の要因においては、GPAの有効活用であると思う。
(学生モニター)学生側の要因においては、モチベートされる機会が必要であると思う。インターンシップなど、社会に触れる機会が学問に対するモチベートに繋がる。
(学生モニター)基幹教育セミナーは1年前期に開講されているので、大学について具体的なイメージが湧いていない学生が多かった。学年が上がるにつれて基幹教育セミナーのような取り組みを行うと、社会との繋がりをより感じることができると考える。

不公平感や不満(同じ授業でも成績評価が異なるなど)を改善したら、勉学に対するモチベーションが上がるのか?
(学生モニター)公平かどうかは最低限のことと考えており、モチベーションを下げないという対策にはなると思う。
(学生モニター)学生の大学離れを感じていて、声の通りやすさについて、ハードルが高い実感がある。学生の声が通ったという事例を示してもらえると、モチベートされる機会になるのではないか。

ラーニングアナリティクスで実際に教育効果が上がったという事例はあるのか?
(木實氏)数値として検証する段階まではいっていないが、講義のスピードを調整することができると、居眠りする学生が減ったという声が聞こえてきた。データとして、学習時間を見ることができるのは役立つと思う。
(小方氏)システムを使用した時と使用していない時の実感の差異や時間の短縮度合いを比べ、その効果を検証していくことで、より良いシステムになると思われる。

M2Bシステムを実際に使われた教員からのコメントは?
(木實氏)人数が多いクラスの場合は、好評な意見が多い。鋭い意見もあって、役に立つ。

アメリカで学生の授業数が少ないとのことだが、必要な知識・技術は修得できているのか?
(小方氏)中等教育の水準がずいぶん違うなど、構造的な差があるので、簡単な比較はできない。ただ、アメリカの教育は、単純に「科目数が少ない・授業時間が短い」ということではなく、4年間均等に学ぶことで、各セメスターの負担を減らしている。日本の卒論の単位数が適当かどうかは検討する余地がある。

九州大学で4学期制が導入されたが、授業を週2回開講した場合、メリット・デメリットどちらを思いつくか?
(学生モニター)物理学科では、まだクォーター制の授業が実際に導入されていないが、個人的には、週1回のほうが、定着しやすいと感じている。ただ、学問の分野によって適する/適さないがあると思う。
(学生モニター)法律系は、ある程度授業回数をこなさないといけないので、週2回が適している。

(学生モニター)医学部はカリキュラムが独特なので、あまり参考にならないが、扱っている内容としては、週に複数回あったほうが定着しやすいと思う。

以上